岩井コラム
「幣のフィールド」を制作する美術家岩井成昭が「今」想うことを語ります。

アーカイブ

第一回 「十勝」というサイトと 「幣のフィールド」
第二回 粘土の効能
第三回 意図されたこと/見えてきたこと
第四回 「幣のフィールド」


第二回
粘土の効能

作品作りの根幹となる陶土による連続ワークショップが本格化しています。2月下旬から3月上旬にかけて東京、北海道、長野において7つの小中学校と一般対象のワークショップ1件が実施され、この期間だけでのべ400人以上の方々と共に制作できました。参加いただいた皆様には、心からお礼を申し上げたいと思います。

コミュニケーション・ツールとしての粘土

毎回のワークショップでは、コミュニケーション・ツールとしての粘土(陶土)の持つ潜在的な効力に驚いています。造形教育において粘土は情緒的・感情的な素材と捉えられており、直感的な表現に適していると考えられる一方で、精神を安定させたり、癒しの効果があるとまで主張する人もいます。もちろん、そうした側面も興味深いのですが、むしろグループ・ワークの中で粘土を手でこねながら会話をしたり、その触覚的な新鮮味を分かち合いながら制作することで参加者同士の連帯感を短時間に作り上げ、そこで形成された小さな共同体の雰囲気が個々人の手の動きにフィードバックする、という作用の円環が生まれること。これが何より注目すべき点だと思います。その結果として出来上がった作品群をながめると、そのワークショップ全体に漂っていた雰囲気を感じ取ることができます。これは同じく陶土を扱っても、集中力を要し自分自身に没頭する必要がある、ろくろを使った器の成形などでは得られない効果だといえます。

アマンダの「Let's Chat」
人間関係をテーマに多くの優れた作品を制作している、アマンダ・ヘンというシンガポールのアーティストがいます。
彼女には作家と観客、あるいは観客同士が出会うための時空をミニマムかつ鮮やかに創出する「Let's Chat」という観客参加型作品があります。この作品の「仕かけ」は極めてシンプルで、彼女自身が育てた「もやし」を中央に盛ったテーブルに人々を招き、それぞれが「もやし」のヒゲを取りながら世間話をするというものでした。これは中国の主婦が行なう伝統的な家事からの引用です。私も参加してみましたが、手元で行なわれるリズミカルな単純作業が続く限り、知らない者同士でさえ会話が途切れることが無い(・・というか「気まずい途切れ方が無い」との表現が正確か)という不思議な体験をしました。かつては単純作業の退屈さを回避するために近所の主婦が集まり、会話を始めたのでしょうが、現在では円滑な会話を促すためにこの作業を利用するという逆発想です。さらには参加者に、何気ない日常の会話の中にも葛藤や発見、そして幸福の本質が潜んでいることを気づかせてくれる作品でした。
「幣のフィールド」は、自然環境と生活の痕跡としての陶オブジェが時流の中で意味を織り成す作品であり、全体としての制作意図は異なりますが、プロセス段階において参加者同士のリラックスした関係が形成される点で「Let's Chat」と近い効果を持っていると言えます。さらに「幣のフィールド」は、そのプロセス上で生まれた意識の交流が、それぞれ個人の制作に反映した結果(=粘土のかたち)が焼成によって固定されることで、永遠を獲得していくという側面も持っています。言いかえれば、参加者が過ごした日常の瞬間がそのまま陶の中に刻印されていくようなものです。

あらゆる世代を対象にしたワークショップの開催
現在「幣のフィールド」のワークショップは、小学校を中心に実施されています。地域や学校ごとに全く異なる雰囲気と、学年の違いやクラスの個性が、陶土を媒体として表われてくる瞬間に魅了されています。そしてもう一つの発見はあらゆる世代を対象にしたワークショップにおいて、異なる世代間の溝を文字通り粘土が埋めていくように思える点です。「稚拙さ」や「堅実さ」などという基準を無化したうえで表現を完結させられる素材はそう多くはありません。そして誤解を恐れずに言えば、どんなに上手くても下手くそでも、造形としての魅力が容易に見出せる「何でもアリ」の素材が粘土なのです。例えばこのワークショップの中では、親子の参加者どちらかが、教える/教えられるという立場に留まることなく、対等に作品を見せ合うことでお互いのセンスを発見し得る機会にもなります。
このように「幣のフィールド」は、そのプロセスの持つ意義にも注目していきたいと思います。そのために今後も学校における実施と平行して、あるいは学校内においても、世代を超えた交流が可能なワークショップ開催を広げて行く所存です。関係者各位のご理解、ご協力と皆さんのご参加を心待ちしております。(2007/3/21)

岩井成昭
いわいしげあき

 
1962年東京生。東京在住。1990年より音声やノイズなどを収集し、ギャラリー空間に再構成したサウンド・インスタレーションを連続して発表する。90年代後半からは人と社会の関係性にテーマを求め、主に欧州・豪州・日本における多文化状況の調査を通してビデオや音声による作品を制作。近年では、以前からの手法に加えて、インスタレーション・テキスト・パフォーマンスなど、使用メディアや作品形態の幅をさらに広げると共に、世界各地の都市や地方に滞在し、地域のコミュニティや伝統を現代の文脈の中で再構築する試みを続けている。

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