岩井コラム
「幣のフィールド」を制作する美術家岩井成昭が「今」想うことを語ります。

アーカイブ

第一回 「十勝」というサイトと 「幣のフィールド」
第二回 粘土の効能
第三回 意図されたこと/見えてきたこと
第四回 「幣のフィールド」


第三回
意図されたこと/見えてきたこと

前回のコラム書きから半年以上もブランクができてしまいましたが、その間も「幣のフィールド」ワークショップは都内小学校を中心に着々と回を重ねて来ました。また、5月には京都ツアー、6月には念願の一般参加ワークショップを杉並でおこない、10月には早くも(?)私の母校の小学校で実施することもできました。実施校も11月には30を超えます。企画を受け入れて頂いた皆様、参加いただいた皆様に改めてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。

対話型鑑賞法とワークショップ型授業

3年ほど前に雑誌の依頼で、美術鑑賞教育の第一人者、アメリア・アレナスにインタヴューを行なったことがあります(*1)。彼女は自身が提唱する、作品を介した対話型鑑賞法の重要性を「人を傷つけるリスクが無いこと」、つまり自分を他人にさらけ出したり、相手に直接意見することなく、あくまでも作品を通して間接的に他者の内側を理解できる点にあると述べています。これは社会全体に対するアートの効能であると同時に、子ども達の集団に対しても大きな意味を持ちます。このような鑑賞による対話は、自身を社会的な文脈から自由にすることで発言への抵抗感を軽減し、共感を受け入れる素地をつくります。その結果として、学校やクラスという子どもにとっての社会の中において、他の教科では存在の薄い子どもが、作品へのユニークな発言によって一躍脚光を浴びる機会を創出できるわけです。
NPO法人・芸術家と子どもたちの活動ASIAS(*2)への参加がきっかけとなって、私は、「幣のフィールド」以前から小学校におけるワークショップ型授業を実施してきました(実際「幣のフィールド」が多くの小学校に許諾頂いているのも、この活動で得た出会いが基盤にあります)が、自身も含めたアーティストが行なうこれらのワークショップも上記アメリアの対話型鑑賞法とプロセスこそ違え同様の効能を期待できます。知識や技術の評価基準とは別の「ものさし」を提示すること。既成の価値基準が拡大あるいは逆転する経験を作り出すこと、などが課題となりますが、これらは表現者と子どもたちの関わりにおいて、しばしばメインになります。こうした中、最近になって、まさに上記の目的に絞り込んで開発されたプログラムの存在を知ったことは、少なからず驚きでした。「プロジェクト・アドベンチャー(*3)」という名称で、幾つかの学校では授業で取り入れられているようです。与えられた難題をクラス一丸となり頭と身体で解決していくプログラムで、しばしばグループ内個人の力関係に変動が起こり、やり遂げた後にはメンバー全員を尊重する思いと絆が強まるそうです。このプログラムの存在は、アーティスト達が大切にしてきたテーマが、現代社会一般からの要請とリンクしていることを示唆しています。


作品を所有できない意味
ところで、「幣のフィールド」で制作される作品(=陶のオブジェ)は、焼成と共に作者の手元から離れ、見知らぬ十勝の森へと運ばれます。つまり、学校における制作にも関わらず、先生の点数評価の対象にもならず自己所有もできない、子どもたちにとってはまるで白昼夢のような存在だといえます。しかし、だからこそさまざまな思いをその中に託すことができると考えています。ワークショップを行なうと、この点を直感的に理解している子どもとの出会いがあります。モチーフに何を選ぶかという問いに対して、私は多くの場合、「自分の身近にあり、千年後に残したいもの」とだけお願いしています。これを受けて、ある5年生のクラスでは「羽ばたくツバメ」を作った男子生徒がいました。最近自宅のそばにツバメが巣をつくり身近に感じていたそうです。彼は「できあがったら、ツバメの頭を南に向けて置いてほしい」と私に頼みました。今まで作品のモチーフや形状に対する思いを語る子どもはいても、設置の方法まで指示されたのは初めてです。彼の説明には、この陶オブジェが北海道から南国の越冬地へ向かうツバメの目印となり、旅の途上に位置する東京でその姿を見ることができるかもしれない、という期待が込められていました。つまり、作り上げた作品の中に時空を超えた物語がよまれているのです。


「幣のフィールド」を学校で実施する際に特に強調させていただくのは、制作した作品が手元から失われることによって獲得される「頭の中でイメージする力」、言い換えれば、あまり馴染みのない「コンセプチュアル」な考え方に子どもたちが触れるきっかけになれば、という点です。アーティストという他者の呼びかけによってオブジェは作られて、外部へ持ち去れる。さらに、それは自分が経験できないほど長い時間展示され続ける。くどいようですが、このプロセスによって子どもたちは「外の世界」を強く意識できるはずです。ただ、これらの提案は、言うまでもなく子ども達をよく知る先生方のご理解のうえ、授業における共同体制が出来上がったうえで、初めて投げかけることができる試みです。学校独自の慣習や常識、指導法の中で無理のない流れを作り出すことは、非常に大切だと考えています。これまで「幣のフィールド」を通して、(子どもたちとは言うまでもなく)先生方との出会いによって多くを学ばせて頂きましたが、これからも「幣のフィールド・ワークショップ」の主旨をより広めていくと同時に、このワークショップをさまざまな場と、それぞれの目論見で「利用」していただこうと考えています。(2007/10/31)

注)
*1 Luca 2004/No.7 特集「Art Kid’s Eye アート鑑賞入門」P.30〜33
*2 ASIAS= Artist's Studio In A Schoolの略。NPO法人・芸術家と子どもたちがアーティストを学校に派遣、教員と協力してワークショップ型授業を実施する事業を全国に先駆け2000年度から開始し、継続させている。
*3 米国で開発された教育プログラム。「努力の評価」「心の安全」などを体験学習から学ぶことを目的に、小学校だけでなく病院、企業などで行なわれている。

岩井成昭
いわいしげあき

 
1962年東京生。東京在住。1990年より音声やノイズなどを収集し、ギャラリー空間に再構成したサウンド・インスタレーションを連続して発表する。90年代後半からは人と社会の関係性にテーマを求め、主に欧州・豪州・日本における多文化状況の調査を通してビデオや音声による作品を制作。近年では、以前からの手法に加えて、インスタレーション・テキスト・パフォーマンスなど、使用メディアや作品形態の幅をさらに広げると共に、世界各地の都市や地方に滞在し、地域のコミュニティや伝統を現代の文脈の中で再構築する試みを続けている。

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