・上映会と義援金のおねがい
・上映会
 

小林 博(こばやし もとい)

震災そのものではなく、ネットの中での話をしたい。

「震災の直後から飛び交った様々な情報の中には悪質なデマや無責任な憶測が少なくなかった。電話やメールなどの通信がままならない状態で、私はウェブ上のコミュニティサイトを使って友人と連絡を取り合いながら、現在の状況を何とか掴もうとしていた。地元の人間が情報を交し合うコミュニティでは、海沿い 地区の凄惨な被害状況や避難所の場所、ライフラインの情報などがほとんどライブで書き込まれていった。この情報によって救われたり、何らかの行動の指針を見つけた人も多かったように思う。ネットの中にあっても、人々の懸命な行動は続いていた。

反面で、人々の不安を駆り立てる煽動的な書き込みも多かった。原発が爆発した二日目、ネットで荒れ狂ったデマは「放射能を恐れる市や国が、あらゆる道路を封鎖し人々を隔離し始めている」というものだった。すでに市長をはじめとした幹部たちはことごとく逃げ出し、いわき市は完全に見捨てられたという書き 込みに掲示板はパニックを起こした。性質の悪いことにこの書き込みには「市役所の職員が言っていた」「議員から忠告を受けた」などの出所までがついていた。「放射能はたちまちのうちに300キロの距離を走るためもはや助からない、みんな死ぬ」などと煽った文もあった。賢明な人々が数値や過去の事例を挙げ、皆に落ち着くように促す努力もあったが、書き込みは執拗に続いた。まともに取り合わなかった人の方が多かっただろう。それでも煽られた人も少なくはなかった。日が経つにつれバリエーションも増えた。警察や自衛隊が持ち場を離れて逃げた、原発職員もすでに県内にいない。地震の四日目にして餓死者が出たという文章が、身内を名乗る人間によってばらまかれたのは衝撃だった。腐敗した食べ物や悪臭を放つ哺乳瓶などの描写がまことしやかに持ち出され、多くの人間の同情と不安をあおった。この寒い三月の空の下で、一体どうしてそのようなことになりえようか!

これらチェーンメールの共通した特徴は、文中に必ず特定の組織や人物の呆れるような行動が含まれていることだった。これによって作者が一体何がしたかったのかは私にはわからないが、混乱した中で現状を掴むため、藁にもすがる思いでやってきた人々に対してこれはあんまりだった。文章に騙された人々は、そ れぞれの使命感や善意をもって真剣に文章の拡散に取り組んだに違いなかった。必死な思いで、家族や友人たちにそのことを伝えたに違いなかった。

勿論、くだらないネットのくだらない噂話だと言ってしまえばそれまでかもしれないし、言ってしまえばきりもない。それでもそんなつまらない話に振り回され、気の毒なほどに怯える人が大勢いて、その様子はとても悲しかった。
江尻暁子 ひろしししど
けいこたかだ けいすけしまざき
もといこばやし のぶおますだ
ともみちひるた ゆきこみはら